論文出版まで8年半「ネットフリックスのドラマのよう」
「謎に包まれた数学の論争は、ネットフリックスのドラマをほうふつとさせる展開だ」
仏紙は3月、論文への批判や審査の不備への指摘など紆余(うよ)曲折を経て出版された経緯をこう表現した。英BBCも「不可解な証明を巡る論争」と題した記事で、「ほとんどの数学者は証明が失敗したと考え、理解することをあきらめた」とする学界の声を伝えた。
ABC予想は、1、2、3…と無限に続く整数の足し算とかけ算という数学の根本についての問いだ。証明されれば数々の未解決問題の解決につながるため、数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞級の成果と言われた。その難問に、名門米プリンストン大大学院を卒業後に帰国した望月氏は、約20年かけて1人で作り上げた「宇宙際(うちゅうさい)タイヒミュラー理論」という独創的な理論で挑んだ。
ところが、論文は「足し算やかけ算をする世界(=宇宙)を縦横無尽につなげて(=際)、数を操る」という奇抜さと難解さで、多くの数学者を困惑させた。「どこが分からないのかさえ分からない」「未来から来た論文」と恐れられた。著名な数学者から「証明の進め方に修正不能なギャップがある」といった疑問の声も上がった。
「望月氏を審査から除外」 編集委員会が異例の説明
昨年4月、論文が投稿された数理研発行の数学誌「PRIMS(ピーリムス)」の編集委員会は論文の正しさを確かめる「査読」が終了したと宣言。今年3月に特集号を出版し、膨大なページ数の論文を世に問うた。
それでも、懐疑的な見方は消えていない。英科学誌ネイチャーは「不可解な論文が公式に出版されることに衝撃を受けた。ABC予想の『証明』は物議を醸したままだ」と論評した。
望月氏がPRIMSの編集委員長だったことから、審査方法への疑問もくすぶり続けている。編集委員会は特集号の冒頭で、「利益相反を避けるため、望月氏を委員会から完全に排除していた」と異例の説明を加えた。望月氏も出版後のリポートで、分野が近い研究者が数理研にいるため、「審査に最も技術的に適した雑誌だ」とPRIMSに投稿した理由を説明した。
これに対し、ABC予想を提唱したジョゼフ・オステルレ仏ソルボンヌ大名誉教授は「重要な論文が望月氏に近い雑誌で審査されたのは驚きだ」。フィールズ賞受賞者のピーター・ショルツ独ボン大教授も「証明の疑問点は明らかなのに出版された論文でも解消できていない。納得できる説明をしてほしい」などと述べた。
興味を失う数学者もいる。望…(以下有料版で,残り628文字)
朝日新聞 2021年7月27日 8時00分
https://www.asahi.com/articles/ASP7V4TC2P7RULBJ008.html?ref=tw_asahi
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Source: 理系にゅーす