本研究成果は、2018年8月30日に、ドイツの国際学術誌「Animal Cognition」のオンライン版に掲載されました。
■研究手法・成果
アズキゾウムシのメス成虫は、飼育環境ではアズキの豆粒の表面に1個ずつ産卵しますが、産卵すべき場所の選定には表面の曲率とアズキの匂いを用いていることが知られています。この性質を利用して、豆粒の代わりに同じ大きさのガラス玉の表面にも産卵させることができます。また、他の研究者によるこれまでの研究から、かれらはすでに卵が存在する豆粒の表面には産卵を避けるということも知られてきました。
研究グループのひとり、大竹は、よく洗浄したガラス玉の表面に卵を産ませるときには、かれらは他の卵の存在を避けず、むしろそれを選り好んで産卵しているということに気づきました。これは従来知られてきたアズキゾウムシの行動とは全く異なるため、私たちはこの行動をより詳細に調べてみることにしました。
まず、シャーレの中にアズキ1粒とガラス玉1粒とを並べ、交尾済みで産卵経験のないアズキゾウムシのメス1頭を導入してどちらの表面に産卵するかを1時間観察しました。その結果、卵はアズキのほうに多く産みつけられ、メスは産卵に際して環境情報 (産卵対象)に選り好みがあることが確認されました。次に、シャーレの中にアズキ4粒を並べ、うち1粒はあらかじめ他のメスに卵を産ませておいたものにしました。同じようにメス1頭を導入したところ、メスは卵のない残り3粒のアズキのほうに多く産卵しました。ここまでは今までの研究の再現実験です。
アズキの代わりに、ほぼ同じ大きさでよく洗浄したガラス玉を4粒並べ、うち1粒をアズキのときと同様にあらかじめ他のメスに産卵させておいたものにしました。すると、メスはすでに卵のある1粒に集中的に産卵しました。すなわち、アズキゾウムシのメスは環境情報の好き嫌いに応じて社会情報である他者卵への行動を一変させたのです。これは非常に興味深い発見でしたが、ガラス玉という人工物を産卵対象として使用している副作用がアズキゾウムシに現れた結果である可能性を排除する必要がありました。そこで、ガラス玉にアズキの水出し汁を塗布したものをメスに提示する実験も行いました。その結果、メスはアズキを与えられたときと同様に、洗浄したガラス玉よりも塗布済みガラス玉を産卵対象として選好し、さらに他メスがすでに産卵した塗布済みガラス玉への産卵を避けることがわかりました。
今回の研究結果は、アズキゾウムシのメス成虫が、産卵対象という環境情報に応じて、他のメスが産んだ卵の存在という社会情報に対する行動を変化させたということを意味しています。さらに、環境情報の違い (アズキとガラス玉)は、かれらの産卵対象への選好性の強弱と対応しています。従ってかれらは、産卵対象として満足な環境が与えられれば、他のメスが産んだ卵のない産卵場所を探すという 「革新的な」行動をとり、満足な環境が与えられなかった場合には、他のメスと同じ場所に産卵するという 「模倣的な」行動をとる、ということができます。
この行動の変化には、アズキゾウムシの生存や繁殖にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。「革新的な」行動には、自分の子が他のメスの子と餌をめぐって競争しなくてもよくなるというメリットがあります。いっぽう、「模倣的な」行動には、短い一生の中でみずから試行錯誤をしなくてもよいことや、環境情報が劣化しやすい (豆の匂いが失われやすい)場合でも、他者の産卵を参照することにより好ましい資源にありつけること、といったメリットが考えられます。洗浄したガラス玉という、不満足な産卵資源だけしか与えられていない環境は、アズキゾウムシにとって模倣のメリットが資源競争のコストを上回る状況に対応しているのかもしれません。
■アズキ(左)、ガラス玉(右)の表面に産卵しようとしているアズキゾウムシのメス
https://research-er.jp/img/article/20180914/20180914122017.jpg
続きはソースで
引用元: ・【昆虫学】昆虫の産卵意思決定における他者情報の活用規則を発見[09/14]
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Source: 理系にゅーす