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1: 2021/08/19(木) 20:47:35.07
ここ数年の急速な技術進歩により、あらゆる種類の細胞に変化できる「iPS細胞」から、人工培養された臓器(オルガノイド)を作成することが可能になってきました。

特に人間の脳を模倣する脳オルガノイドの培養は注目を浴び、世界中の実験室で無数の「脳」が培養されています。
しかし脳オルガノイドには「目の形成」という大きな壁が存在していました。

あまり知られていない事実ですが、動物の持つ目は、脳の一部が変化して体の表面に露出することで獲得されたのです。
つまり進化的にも目は脳の領域の1つなのです。

そのため高度な培養脳(脳オルガノイド)を作ろうとすれば、目の形成は避けては通れない過程となります。

これまでの研究により、脳オルガノイドを成長させることで目の受け皿となる「眼杯」などは誘導できていましたが、脳細胞と神経で繋がった統合的な目を作ることは困難でした。
原因は、脳オルガノイドに与える適切な刺激がわからなかったからです。

脳オルガノイドにはもともと、目になるための専用の細胞(間葉)が準備されていたのですが、外部からの適切な刺激がないために、準備段階が維持されたまま、目ができなかったのです。
ですが今回、ハインリッヒ・ハイネ大学の研究者たちにより、意外な物質がカギとなっていたことが判明します。

脳オルガノイドに目を作らせるためには、ビタミンA(酢酸レチノイン)が必要でした。

培養開始から20日齢の脳オルガノイドに低濃度になるようにビタミンAを加えると、即座に目の形成に不可欠な色素の沈着がはじまりました。
そして40日後の60日齢になると、色素が沈着していた場所に、多様な視細胞を含む網膜・水晶体(レンズ)・角膜といった目を構成する組織が現れはじめたのです。
また網膜からは視神経が伸びて視交叉を形成したり、一部は脳オルガノイドの内部領域と接続していることが判明します。

さらに研究者たちが新たに形成された眼球に光をあてたところ、視細胞から神経パルスが発せられ、受け取った脳オルガノイドで活発な電位変化が観察されました。
この結果は、目が光を感知して、脳細胞にて情報処理が行われていることを示します。

同様の目と視神経の形成は、子宮内部にいる人間の胎児でも50~60日齢で起こることが知られています。
研究を統括したジェイ・ゴパラクリシュナン教授は結果の分析を経て「ある意味で、脳オルガノイドは光を見ている」と述べました。

さらに追加の観察により、目の獲得は脳オルガノイドにも影響を与えていたことが示されます。
目を獲得した脳オルガノイドで働いている遺伝子を調べたところ、光の知覚にかかわる遺伝子が活性化していたことも発見されました。

感覚器と接続されていない脳オルガノイドは、全く刺激のない世界に存在しています。
しかし目を獲得したことで、外界との接点が発生し、個々のニューロンの活動にも大きな影響を与えていたのです。

また今回の研究は、目に疾患を抱える人々にとって大きな希望になりえます。
iPS細胞から目を作る方法の一端が判明したことで、患者本人の遺伝子を持つiPS細胞から、新品の網膜や水晶体(レンズ)を作れる可能性があります。
さらに脳オルガノイドと神経接続された目は、新薬の開発や病気の仕組み解明など、疑似的な人体実験の材料として用いることが可能です。

研究者たちは今後も研究を続け、より完璧な脳オルガノイドと目が作られるように調整を続けていくとのこと。
もしかしたら将来の眼科には従来の部門に加えて、現在の目を新しい眼球と交換する再生部門が備わっているかもしれませんね。

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2021.08.19
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Source: 理系にゅーす