mitamotono_yoritomo (1)
1: 2022/03/13(日) 20:47:41.64
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絹本着色伝源頼朝像(神護寺蔵)。長年にわたり教科書などで頼朝のイメージとして使われてきたが、近年ではほとんどの研究者が別の人物だと考えている

『鎌倉殿の13人』大泉洋演じる源頼朝が、あんなにも「エラそう」な理由
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20220313-00093300-gendaibiz-ent

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開始早々から賛否両論が飛び交っている今年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。大泉洋が演じるやけに軽いノリで威張り散らす源頼朝や、北条政子をはじめ自己主張の強い女性たち…。当時の人々は、本当に“あんな感じ”だったのでしょうか?
講談社学術文庫の新刊『源氏の血脈―武家の棟梁への道』の著者である中世史研究者の野口実氏が、歴史学者の視点から『鎌倉殿』を読み解きます。
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■源頼朝はそんなにエラかったのか?

 このドラマを見た方から、「どうして伊豆の流人に過ぎなかった頼朝が、東国の武士たちに対してあんなに威張っているのか、源氏とはそんなにエラいのか?」といった疑問を頂いたことがあるが、これはまさに、そのような身分関係のしからしむるところなのである。同じ源氏といっても木曾義仲や甲斐源氏は一段格下なのである。

 平治の乱が起きる前までに頼朝は後白河院の姉にあたる上西門院(じょうさいもんいん)統子(むねこ)内親王に仕え、さらには二条天皇の蔵人に進んでいた。バリバリの殿上人である。

 さらに平治の乱の渦中に開かれた除目(人事会議)では、わずか13歳にして右兵衛権佐(うひょうえごんのすけ)という高官に補任されている。これは将来公卿入りを約束されたに等しい。もちろん平治の乱の結果、解官されることになったのだが、流罪後もこれは前官として彼の身分を表象するものとなった。ドラマで頼朝が「佐殿(すけどの)」と呼ばれる所以である。

 しかも彼には、院近臣家である母方の熱田大宮司家藤原氏(尾張熱田社に所職は持つものの、地方豪族ではなくれっきとした在京貴族である)やその縁に連なる有力貴族があり、上西門院に仕えていたときの上司には、鎌倉政権成立後に親幕府の公卿として活躍する徳大寺(藤原)実定や吉田(藤原)経房もあった。

 治承4年(1180)、以仁王の挙兵に端を発して各地で反平家勢力が蜂起したが、王朝身分秩序において最も上位に位置し、中央政界に最も太いパイプを持つのは源頼朝だったのである。

中略

■頼朝が「鎌倉」にこだわった理由

 戦後の歴史学では、階級関係が重視され、「地方武士は京都の古代的勢力に抑圧される存在で、彼らはそれを打ち破って中世を切り拓いていった」というストーリーで語られた。それは、戦前来の「女々しく退廃した文弱な貴族たちを健全で男らしい地方武士たちが打ち倒していく」という分かりやすい図式と見事にオーバーラップしたのである。

 だから、今日にいたるまで日本人一般の武士理解に右と左の対立はない。ドラマを仕立てるなら、東国武士は土臭く文化に無縁な存在として描いた方がウケるのである。今回の大河ドラマにも、そういった発想が散見されるのは、ちょっと気になる。

 以上に述べた頼朝のステイタスや当時の東国武士たちの存在形態を踏まえるならば、源頼朝が挙兵した直接の契機は何か。なぜ、各地で蜂起した反平家勢力の中で頼朝が最後の勝利者になったのか、という疑問は容易に氷解するのではないだろうか。

 木曾義仲や甲斐源氏と比較しても頼朝のステイタスは高い。院権力周辺の人脈にもつながっている。寿永2年(1183)7月に平家が都落ちして木曾義仲が入京した後、朝廷は論功行賞を行ったが、その際に第一の功労者とされたのは、まだ鎌倉にいた頼朝だった。そのことがすべてを物語っているだろう。地方武士にとっても、源氏庶流の一族にとっても、最も棟梁として頼みとすべき存在は頼朝だったのである。

 それではなぜ鎌倉か。それは頼朝の父、義朝が1140年代に鎌倉を本拠として、南関東の武士たちの抗争を調停し、その後、院に出仕するために在地支配を子息の義平に委ねてまさに武家の棟梁として地位を確立した実績があったからである。義朝は一時期「坂東の平和」を実現していたのである。挙兵当初の頼朝にとって、父ののこした遺産は在地武士たちの参向を図る上で大きな意味を持ったに違いない。

 このドラマをきっかけに、一般の方たちにこの時代に対する関心が高まって、鎌倉幕府成立期に関する研究が盛り上がり、ひいては、若い視聴者の中から、研究者への道を歩もうと志す人が現れることを期待している。

野口 実(京都女子大学名誉教授)


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Source: 理系にゅーす