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1: 2021/07/06(火) 11:35:27.70
文春オンライン 7/6
https://bunshun.jp/articles/-/46584

■年配者はよくテンを打つのか
いきなり名前を出して恐縮ですが、作家の坂井希久子さんがツイッターで、お父さんから来たメールの文面について〈読点の打ち方が高齢である〉と評しています(2021年5月24日)。新型コロナウイルスワクチンの予約がなかなか始まらず、〈政府の、対応の、悪さには、凄く腹が立ちますね!〉と怒っていたそうです。

ワクチン接種の進行状況については、私なりに思うところはありますが、この文章の眼目はそこではありません。読点(テン)の打ち方に世代差があるのか、どう打てば読み手に伝わりやすいのか、ということを考えてみたいのです。

坂井さんのお父さんの文を見ると、〈政府の、対応の、悪さには、〉と文節ごとにテンを打った部分があります。国語の教科書ではこういう打ち方はあまりしません。では、これは年配者の打ち方かというと、必ずしもそうではなさそうです。国語辞典を作る私は、利用者からの感想文を読む機会がありますが、年配の人の文章でも、テンを使わずに長文を続けるものがあります。

「何十年も前に買った辞書をずっと使い続けてきましたが最近は俳句の会にもよく顔を出すようになったので思い切って新版を求めました」(実例に基づく作例)

テンの打ち方は、書き手の個性や、その時の必要などによって変わります。いら立つ気持ちを強調する効果を狙って、あえて文節ごとにテンを打つ場合もあるでしょう。

■若者から見れば「句読点オジサン」 年配の人の文章にテンが多い、と若い人たちが感じるとすれば、それはLINEなどの文章をイメージするからではないでしょうか。
一般に、若い世代は、LINEを含むSNSの文章で句読点をあまり使いません。

「英語のリスニング能力低すぎて先生の言ってること全然わからん もっと勉強しないと授業ついて行けんくなるかも」(作例)

などと、少し長い文でもテン・マルなしですませます。

一方、上の世代では、一般的な文章を書くのと同じ感覚で、SNSでもテンを使う人がいます。それで、若者の目からはテンを多用しているように感じられるのでしょう。

テンの多い文は、いわゆる「おじさん構文」の特徴のひとつにも挙げられています。

2017年4月、ツイッターで「オジサンになりきろう講座」というのが投稿され、おじさんっぽいLINEの文章の特徴が紹介されました。やがて、これが「おじさん構文」として広まりました(正確には「構文」というより「文体」です)。

その「おじさん構文」のひとつに「句読点オジサン」というのがあります。

〈明日は、楽しみにしてるよ。/体調に、気をつけてね。〉

顔文字や絵文字は使わず、句読点の多い文を書きます。現実に、こんなふうにテンを乱打するおじさんが何パーセントいるのか、それは知りません。ただ、ごく控え目にテンを打つ年配者でも、テンをまったく使わない若者と比較すれば、十分「句読点オジサン」に分類されるでしょう。

■昔の人は多くテンを打ったか
テンの乱打というと思い浮かぶのは、細菌学者・野口英世の母シカの手紙です。海外にいる息子・英世に対し、早く帰国してほしいと頼む内容です。1912年に書かれました。

〈おまイの。しせ〔出世〕にわ。みなたまけました〔驚きました〕。わたくしもよろこんでをりまする。なかた〔中田〕のかんのんさまに。さまにねん〔意味不明〕。よこもり〔夜籠もり〕を。いたしました。〔下略〕〉

シカが文字を覚えたのは少女時代で、幕末のことでした。寺の住職にお手本を書いてもらい、繰り返し練習したといいます。この手紙は彼女の独学のたまものです。

全文を読むと、文節ごとに「。」(現在のテンおよびマルに相当)を打っている箇所が複数あります。シカは漢字が書けませんでした。「。」を多用したのは、仮名が長く続くのを避けようとしたからでしょう。

ただし、昔の人がみな、シカと同じようにテンを多く打っていたわけではありません。

歌人・与謝野晶子は、同じく1912年にヨーロッパに渡った際、こんなはがきを次男に送りました。

〈カアサンハズヰブン〔随分〕クルシカツタデスノオルドー汽車〔北急行〕ハシマヒニ百円カラタカクナツタノデスカラカアサンハフツカホドアサニパントカフヘー〔コーヒー〕ヲノンダダケデナニモタベマセンデシタ。ダカラナホツカレマシタ。〉

これだけ長い文章で、テンは使わず、マルも2か所使っているだけです。読みにくいからテンを打とうという発想は、この文章にはありません。

(以下リンク先で)


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Source: 理系にゅーす