日本発の自己啓発本「嫌われる勇気」が海外でも人気を博し、今春、世界累計1350万部を突破した。人気の背景を探った。
(金来ひろみ)
◼「人生を主体的に」教わる
4月下旬、東京都千代田区の「丸善丸の内本店」を訪れると、青い表紙の単行本が、目立つ場所に並べられていた。
「自己啓発の父」と呼ばれるオーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラーの心理学を解説した本で、2013年12月に発売された。
出版元のダイヤモンド社によると今年4月現在、国内発行部数は323万部に上る。
書店の担当者は、「自己啓発本は、昇進して部下を持つようになった人など、新生活の指針がほしいときに手に取られることが多い。ただ、10年以上売れ続けることは珍しい」と話す。
この本はフロイト、ユングと並び「心理学の3大巨頭」と呼ばれるアドラーの思想について書かれており、青年と哲人が議論を交わす対話形式で進む。「すべての悩みは対人関係の悩みである」「自由とは他者から嫌われることである」「他者の期待を満たすために生きているのではない」といったアドラーの考えに、青年がことごとく反発するというストーリーだ。
何度も読み返しているという東京都内の会社員の女性(41)は、職場の人間関係に疲れたときにこの本を読み、「他人の評価に振り回されず、自分の人生を主体的に生きなさいと教わった」と話す。
◼常識覆される
「嫌われる勇気」はなぜ読み続けられているのか。
編集者の柿内芳文さんは、斬新な読書体験が理由として考えられるという。「登場人物の青年が抱く疑問は、読者の疑問そのもの。圧倒的な没入感が本書にはある」と分析する。
共著者で哲学者の岸見一郎さんは、「現状に満足していない人に対し、本書が『じゃあ、どうするのか』という指針を与えた。自分の考えていることは間違っていないと背中を押したのではないか」と考察する。
もう一人の著者で、ライターの古賀史健さんは、SNSが広がり、日本の閉鎖的な構造が可視化されるようになったことを理由に挙げる。「一体感を重視し、集団からはみ出さないことが求められる中、多くの人が、今まで常識とされたことが実はそうでない、従う必要はないんだと気づいた」という。「嫌われることを恐れるな」と説く内容が、「自分を強く持つための、大きなよりどころになったのではないか」と分析する。
◼発祥は18世紀米国 日本では「学問のすゝめ」
そもそも自己啓発本とは何か。
国内外の約1000冊を読破した愛知教育大教授の尾崎俊介さんによると、自己啓発本の発祥は18世紀末のアメリカ。「建国の父」の一人として知られるベンジャミン・フランクリンの自伝が先駆けという。「出自が低くても自分の努力次第で出世することができる」と説いた。
日本では、明治時代に出版された福沢諭吉の「学問のすゝめ」が始まりとされ、「人は誰でも学問をしさえすれば出世できる」と教え、導いた。
尾崎さんによると、「自己啓発本に共通するテーマは、『あなたの人生はあなた自身の力で変えられる』というもの。身分制度が廃止されるなど、個人の社会的地位(階層)の流動性が高まる時代に生まれやすい」という。
日本で自己啓発本が支持されるのは、「向上心にあふれ、勤勉な国民気質に合致しているからではないか」と説明する。
発売から10年以上たち、最近は「嫌われる勇気」を読んだ人たちが、「新生活を始める人に読んでほしい」と新社会人などに薦める例が増えているそうだ。これからも「新たな古典」として読み継がれていくことだろう。
◼中韓でもヒット
「嫌われる勇気」は海外でも広く読まれている。
日本発の自己啓発本としては異例の世界累計1350万部(紙、電子、オーディオブックの合計)を突破し、韓国や中国、アメリカ、ドイツなど約40の国と地域で翻訳されている。
時代や場所を限定する表現を使っていないことも、世界で受け入れられる理由の一つだ。
続きは↓
https://news.yahoo.co.jp/articles/908b4a6133a9b73d4b427f3cb278745438ea8a79
[読売新聞]
20日5/5/11(日) 12:01
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Source: 理系にゅーす