■「くさい人は危険」と、脳は認識してしまう
ビジネスをするうえで、「くさい」ということはとても危険だと、東北大学教授の坂井信之氏は指摘する。
「心理学的には、人の印象を決定づける一番の要因がにおいです。性格や見た目はその次。どんなに仕事ができて、人柄がよかったとしても、くさかったら、ただそれだけで嫌われてしまいます」
坂井氏によれば、人間はひとたび「くさい人」と認識すると、その人を見るたびに脳が自動的に「くさい」という記憶を呼び起こすようになってしまう。つまり、「くさい」という印象を1度与えてしまったら、ずっとくさい人だと思われ、嫌われ続けてしまうことになるのだ。
「その原因として考えられているのが、嗅覚の情報を処理する第1次嗅覚野がある位置です。脳の中で、記憶を司る海馬が隣り合わせになっていることから、においは記憶に非常に強く働きかける感覚だと考えられている。アルツハイマー病を発症すると、まずはにおいの感覚や記憶から失われていくこともわかっています。脳の構造から見ても、記憶と嗅覚の結びつきの強さには納得できるところも多いのです」
そもそも、ヒトはどのように脳の中でにおいを感じ取っているのだろうか。そのメカニズムを聞いた。
「においは、におい成分の分子が空気中を飛んできて、鼻の粘膜にあるレセプターでキャッチされます。その後、におい成分の分子とレセプターの化学反応が起き、脳に信号が送られて『いいにおいがする』『くさい』などと感じ、判断するようにできているのです。また、判断と並行して大脳辺縁系の扁桃体という場所に情報が送られ、意思とは関係なく感情が働きます。このため、嗅覚は生物的な本能を引き起こしやすいと考えられているのです」
また、においに対して、ヒトが瞬時に本能的に判断を下すようにできている理由はほかにもある。
「まず、ヒトは、知らないにおいに対して『危険だ』と感じるようにできています。それに加えて、嗅覚にはある程度近くにならないと感じ取れない、という特徴がある。視覚や聴覚は『遠受容性感覚』と呼ばれ、対象物が遠いところにあっても感じたり、察知したりすることができます。それに対して、味覚や触覚は『近受容性感覚』と呼ばれ、実際に対象物に触れないと、それがどのようなものかわかりません。嗅覚はその間にある感覚。つまり、においを嗅いでから安全か危険かを判断していると、敵の危険にさらされてしまうことになる。そのため、知らないにおいや今までと違うにおいが来ると、脳の中で記憶などの情報を処理して判断する過程を通り越して、理屈抜きで本能的に逃げないといけないという嫌な気持ちにさせるのです」
においを感知する仕組みは誰にでもあるが、においに対する敏感度は人によって異なる。それは、閾値(いきち)(ここでは、においに気づく最小値)が低いと敏感、高いと鈍感というように個人差があるためである。また、においに含まれる「においの種類/強度」といった情報を感じ取る能力の発達の度合いによって、においに対する判断力も変わってくる。
さらに、男女差もある。
「一般に、女性は男性よりも閾値が低く、敏感だといわれています。根拠に基づいた推論でしかありませんが、古来、男性というのは狩りに出かけるか、労働作業に従事するという活動をメインにしていたので、他人と密接に関係している状況になることが少なかった。そのため、においに注意するよりは、見たものを重視するように進化してきた。反対に女性の場合は、男性が狩りに出ている間は集落などに残り、狭い空間で他人と一緒に作業することが多かった。つまり、見た目よりもにおいに注意する環境で生活をしていた。このようにして、敵味方を、男性は見た目で判断し、女性は嗅ぎ分けることで生き残ってきたのではないかと考えられています」
においの感じ方は人間関係に起因するとも指摘されている。
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引用元: ・妻や娘が「パパはくさい」と思う科学的理由…一度「くさい人」になると挽回は困難
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Source: 理系にゅーす