ところが、である。日本では往々にして、ネット上で「味の素」が脚光を浴びると、肯定派と否定派の議論が過熱して炎上状態になってしまうことがある。例えば昨年12月、人気の料理研究家・リュウジ氏がXにレシピを投稿した時のことをご記憶の方も多いだろう。
これまでにもリュウジ氏のレシピは「味の素」を積極的に活用してきたことで、否定派から批判されてきた。そして12月6日(註:Xの表示)、リュウジ氏は「長芋の小判焼き」の作り方を動画で紹介したのだ。
下ごしらえの際、リュウジ氏は同社が販売する和風だし「ほんだし」を小さじ1加えた。これに反応した視聴者がXで《リュウジさん。“ほんだし”も体に悪いから使わんで欲しい》と呼びかけたのだ。
「も」という助詞が使われたことからも明らかなように、この視聴者にとって「味の素」が体に悪いことは前提だった。これにリュウジ氏は《マジでなにが体に悪いのかちゃんと説明してほしいんだよな》と苦言を呈した。
たちまち否定派と肯定派の間で激しい議論が起きた。さらにリュウジ氏は17日、《味の素体に悪いとか言ってる人全員もれなく反ワクチンなのなんでだろう》と投稿した。こちらは《反ワクチン》という過激な表現が使われたこともあり、たちまち炎上してしまった。
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もちろん議論が起きること自体に問題はない。ただ気になるのは、否定派の投稿には我々素人が読んでも科学的な信憑性に乏しい印象を受けたり、ひどい場合は誹謗中傷としか言えない内容が散見されたりする。
そこで同社に取材を依頼し、グローバルコミュニケーション部でサイエンスグループ長を務める吉田真起子さんと、サイエンスグループのマネージャーを務める平林由理さんに、あくまでも科学的な見地からの解説を依頼した。
味の素が把握している「事実に反しているか、もしくは、科学的な根拠に乏しいSNS上での批判」は、大きく分けて2つのパターンがあるという。1つ目として吉田さんは「世界各国で『味の素』の使用が禁止されているというネット上の書き込みは事実に反しています」と指摘する。
◼パキスタンの現状
Xに「味の素 世界 禁止」と入力してみると、確かに《使用禁止が世界標準》といった投稿が表示される。特に「アメリカ 味の素 禁止」で検索すると、途端に表示数が増加することが分かる。《アメリカでは味の素が禁止されていると聞いた》といった事実無根の投稿が延々と続く。
しかし実際には、「味の素」の主成分である「グルタミン酸ナトリウム(MSG)」はアメリカの行政法「連邦規則集」で一般的に安全と認められている物質と明記されており、アメリカでの使用は認められている。
味の素がMSG禁止を把握している国はパキスタンだけだ。こちらは多分に宗教的、政治的な意図に根ざしており、パキスタン政府が「味の素」を狙い撃ちにした可能性も指摘されている。その経緯を日本貿易振興機構(JETRO)がレポートにまとめ、2019年3月に発表した(註1)。
レポートなどによると、18年2月にパキスタンの最高裁判所が突然、MSGの輸入と国内販売の禁止を布告。日本だけでなくパキスタンの食品業界も「科学的根拠のない措置」として撤回を求めているそうだが、なかなか進展は見られないようだ。
◼MSGで味覚障害は起きない
科学的根拠に乏しい投稿の2つ目は、健康被害を主張するパターンだ。《舌が馬鹿になる》、《味覚が壊れる》、《舌が痺れる》、《食べると具合が悪くなる》……といったSNS上の投稿が挙げられる。平林さんが言う。
「こうした投稿は科学的な見地から間違っていると考えられます。例えば味覚に関してですが、味は舌にある味蕾(みらい)の味細胞に味物質が反応することで感じます。味細胞は入れ替わりが非常に早く、10日程度で新しくなります。つまりMSG摂取で味覚異常が生じ、その状態がずっと続く、いわゆる“味覚が壊れる”ということは起きないはずです」
私はうま味調味料を口にすると、本当に具合が悪くなる──こんな反論をする人もいるかもしれない。だが、その大半は「プラセボ効果」で説明できるようだ。
続きは↓
https://news.yahoo.co.jp/articles/49c66cbfcc665260a02340e3d4f2a4c45d0ae311
[デイリー新潮]
2024/7/5(金) 6:13
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Source: 理系にゅーす