人は死ぬとき、実際に人生の走馬灯を見る――。
科学的な「アクシデント」によって得られたデータが、そんなことを示している。
カナダのある研究チームは2016年、87歳のてんかん患者の男性の脳波測定を試みた。
ところが測定中、患者が心臓発作に見舞われ死亡。
予期せず、人が死ぬときの脳の状態が記録された。
その記録には、死の前後の30秒間に、男性の脳波に夢を見ている時や、記憶を呼び起こしている時と同じパターンの動きが確認されたという。
この研究チームは、こうした脳の動きが、人が最期の瞬間に「走馬灯」を見ることを示唆していると、22日に発表された論文で説明している。
■悪い記憶よりは
共著者であるアジマル・ゼマール博士は、ヴァンクーヴァーを拠点にする研究チームが、偶然にも世界で初めて、人が死ぬ瞬間の脳の状態を記録したと語った。
「全くの偶然だった。こうした実験をしようとか、信号を測定しようとは計画していなかった」
では、私たちは死ぬ間際に愛する人々との幸せな記憶を垣間見られるのだろうか?
ゼマール博士は、それは分からないと答えた。
「哲学的領域に踏み込むなら、脳がフラッシュバックを見せるなら悪い記憶より良い記憶だと推測するだろう。しかし何を覚えているかは人それぞれだ」
■結論は出せない
ルイスヴィル大学の神経外科医を務めるゼマール博士は、この患者の心臓が脳に血液を送らなくなるまでの30秒間、
脳波は集中したり、夢を見たり、記憶を呼び起こしたりするといった高度な認識作業を行っている時と同じパターンだったと述べた。
さらにこの脳波は、一般的に死亡が確認される心停止から30秒間続いたという。
「ここで人生の経験を思い起こしている可能性がある。死ぬ直前の数秒間に脳が再生している」
論文ではまた、命がなくなるのは心臓が止まった時なのか、脳が機能しなくなった時なのかという疑問も投げかけている。
ゼマール博士と研究チームは、このひとつの研究だけで広範囲の結論は出せないと慎重な姿勢を取っている。
患者はてんかん症で、脳に出血と腫れがあったため、状況は複雑だった。
「1つの症例だけを報告することを、こころよく思っていない」とゼマール博士は語った。
2016年にこの脳波を記録して以降、分析を強化するために似たようなケースを探したが、成功しなかったという。
■ネズミの実験でも
しかし、2013年に健康なネズミを使って行われた実験が、ヒントを与えてくれるかもしれない。
アメリカで行われたこの実験では、ゼマール博士のてんかん症患者と同じく、ネズミの心臓が止まってから30秒間、強い脳波が観測された。
この類似性は「驚くべきものだ」とゼマール博士は述べた。
研究チームは、人間についてのたった1つの症例が、命が終わる瞬間をめぐるほかの研究の扉を開いてくれるかもしれないと期待している。
ゼマール博士は、「死の間際の経験には、何か神秘的で精神的な要素があるが、こうした発見こそ、科学者が追い求めているものだ」と述べた。
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Source: 理系にゅーす