世界各国の現代人でUCP1遺伝子にGGTA型変異を持つ人の割合を調べた結果、各地の年平均気温と負の相関があることがわかっている。このことから、非ふるえ熱産生が活発化する体質が寒い地域で有利に働くことが見て取れる。縄文人集団はその割合が66%(赤い点線)と高く、そこから想定される当時の年平均気温は5℃だ。(Cold adaptation in Upper Paleolithic hunter-gatherers of eastern Eurasia. Yusuke Watanabe et al., in bioRxivなどをもとに作成) 
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近年、日本列島の先史時代を生きた縄文人のDNA解析が大きく進展している。東京大学などの研究チームが、全国11地点から得られた42人分の縄文人のゲノムを解析して「縄文人の集団とはどのような人々だったのか」という問いに挑んだ。そこから、縄文人が寒冷地に適応した体質の持ち主であった可能性が見えてきた。その理由は、縄文人そのものではなく、彼らの祖先にあったようだ。
今回解析したのは、時期的には6000年前~2500年前にかけての、主に日本列島の東半分で暮らした42人の古人骨から採取したDNAの情報だ。1人のゲノム情報の解読からわかるのはその個人についてだが、数十人以上の規模のゲノムがわかると、遺伝情報のばらつきや偏りから、縄文人が集団としていつ、どのような出来事に遭遇したかが見えてくる。研究チームの一員で、縄文人集団のゲノム解析を担当した東京大学の渡部裕介特任助教は「縄文人が集団としてどのような歴史を持つ人々なのか。そこに迫りたいと思って取り組んだのが今回の研究だ」と話す。
縄文人はほぼ全員が縮れやすい髪やお酒に強いといった特徴を持つことが知られている。一方で、現代の東アジアの集団には直毛の人やお酒に弱い人も多く、様々な特徴の人が混ざっている。長い縄文時代の間、縄文人は大陸側の人々との交流がほとんどなかった。
そこで研究チームが着目したのは、ユーラシア大陸側に残った他の東アジアの集団には広まらなかったのに、日本列島に渡った人々の子孫である縄文人集団でのみ急速に広まった遺伝子変異だ。「APOA5」という遺伝子で中性脂肪の血中濃度が高まる変異が見つかったほか、「FTO」という遺伝子でも肥満度を高める方向の変異が見つかった。これらは当初、「飢餓に備えるための適応」と考えられた。狩猟採集民の生活は常に十分な栄養がとれるとは限らないからだ。
しかし、この理由づけには疑問点が残る。食料が安定して手に入らないという状況は、縄文人集団がほかの大陸側の集団から独立する以前も同じだったはずだ。それなのに、どうして縄文人集団が独立した後になってからAPOA5やFTOといった遺伝子の変異が急速に広まったのだろうか。
研究が進むにつれて新たな解釈が浮かび上がった。カギとなったのは、体を震えさせずに脂肪を代謝して熱を生み出す「非ふるえ熱産生」を担うUCP1という遺伝子だ。寒冷地では、熱を生み出す反応が活発になる「GGTA型」という変異を持つ人が多いことがこれまでの研究で知られているが、縄文人ではその割合が66%にも達していた。これは現代のフィンランド人と同程度で、縄文人集団が寒冷な環境に適応していた可能性を示唆する。さらに、先ほどのAPOA5やFTOの遺伝子変異もこの熱産生を助ける方向に働くこともわかった。これらの変異は、単なる飢餓対策ではなく寒冷適応の結果だった可能性が高い。
この仮説を裏付けるように、グリーンランドの先住民イヌイットと共通する遺伝子変異も発見された。イヌイットの人々では、海獣の脂肪を多く摂取する食生活に適応する形で不飽和脂肪酸の代謝を抑える変異が広まっており、縄文人集団にも同様の変異が見られた。食事によって脂肪を多く摂取し、熱に変える必要性があったことがうかがえる。
では、縄文人の集団はいつこの寒冷適応を獲得したのだろうか。シミュレーションによる推定では、APOA5の遺伝子変異は約2万年前の時点で人口の約75%にまで広まっていた。これは地球規模の寒冷期「最終氷期最盛期」(約2万6500~1万9000年前)に一致する。つまり縄文時代が始まる前に、祖先の人々は寒さへの耐性を獲得していたことになる。(以下ソース)
 2025年10月24日 11:00 
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG235CG0T21C25A0000000/ 
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Source: 理系にゅーす
 
 
 

