https://www.kobe-np.co.jp/news/society/202311/0017068950.shtml
2023/11/26 17:10 🔒
社会 ルッキズムを考える
私はいわゆる受け顎です。しゃくれて見えるだけではなく、上下のかみ合わせが物理的に逆になっています。「ゴリラの食べ方」と言われたり、顎の突き出しをまねられたりして非常に傷つきました。(※ルッキズムを巡るアンケートの回答)
フリーライターの山岸武さん(仮名、50代、兵庫県西宮市)は幼い頃、母によく言われた。
「あんたは受け顎やからな。このままやったらブサイクになってしまうよ」
されるがまま、お風呂で母のマッサージを受けた。歯医者で「温めてほぐして押さえれば、ちょっとはましになるかも」と聞いたらしい。母の手で下顎を押さえられながら「こういう顎はブサイクなんやなあ」と思っていた。
母はいつも「あの人みたいになってしまうよ」と、ある芸能人を引き合いに出した。テレビにその芸能人が映ると「ぶっさいくな顎してるな」と嘲笑した。隣にいた祖母も一緒に笑っていた。
「幼少期からずっと、深層心理に焼き付いているのだと思います。自分は人とちがうんだな、普通じゃないんだなって」
明確に意識させられたのは、中学2年のときだった。給食の時間。班のメンバーと机をくっつけ、昼食を取っていた。
横から視線を感じた。目をやると、同じ班の女子2人が、ちらちらと見ている。かと思うと2人で向き合い、くすくす笑った。視線の先は、顎だった。
「食べているところを横から見られると、受け顎が特に分かりやすいんです」
続けて2人は大げさに下顎を突き出し、顔をゆがめるようにして、もぐもぐと口元をうごかした。そして、ぎりぎり聞こえるくらいの声で「ゴリラの食べ方や」とささやき合った。
「とつぜん始まるんですよ、そういうのって。なんとなく、そこはかとなく、初めて目に触れるものがなんかおかしい、みたいなね。でも、そういう一つ一つが刺さるんです」
■先生の言葉
そのときは受け流し、もめるのも嫌だったから先生を頼った。しかし、彼女たちは注意を受けてもなお、好奇の目を向けてきた。班ごとの連絡ノートには「私らはそんなことしていない」と書かれていた。改めて相談すると、先生は言った。
「おれも同じやから分かるけど、おまえも気にすんなや。そんなことは気にせんようにするのが一番や」
若い男の先生で、彼も受け顎だった。その口調は突き放すようだった。この人なら理解してくれるかもしれないと思っていた。
もしかしたら、先生なりの励ましだったのかもしれない。彼自身は、そう言い聞かせて生きてきたのかもしれない。嫌がらせはしばらくしてやんだが、先生の言葉については今でも納得がいかない。
まるで気にしている方が悪いと言われているような気がして。受け入れろ、乗り越えろと言われても、受け顎は自分の努力ではどうしようもできないのに」
■天国と地獄
写真を撮られるのが嫌いだった。こちらを撮影しているわけではないと分かっていても、街中でレンズが自分に向くだけで不快に感じた。横顔を見られるのが怖くて、飲食店で座る席には気を付けた。そもそも、人と食事をすること自体がおっくうだった。
大学を卒業し、自分で収入を得るようになったら、整形手術を受けると決めていた。とにかく、受け顎をなおしたかった。
「地獄から天国に大逆転できる。それくらいの気持ちでいました」
病院へ行き、外科医に「かみ合わせを普通にしたいのですが」と打ち明けると、こう説明された。
顎の関節は会話や食事で頻繁に動かす。骨格や筋肉が完成された成人の手術は、後の生活に悪影響を及ぼすリスクが高い。絶対にやめたほうがいい-。
医師がそこまで言うのなら、仕方ないのかもしれない。このとき、整形手術はきっぱりあきらめた。
「ある意味で腑には落ちた。とはいえ、それと気になるか気にならないかは、まったく別のことでした」
■涙の診察室
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Source: 理系にゅーす